私は玉砕しなかった-グアムで投降した兵士の記録ー

By | 2017年11月5日
私は玉砕しなかった ブックカバー 私は玉砕しなかった
横田正平
World War, 1939-1945
中央公論新社
1999年8月18日
文庫
452
カバーレイアウト:丸山邦彦(Creative Mind)
カバー写真は著者

元新聞記者の死後、公表された手記。そこには自らの苦渋の選択の過程が綴られていた。満州、サイパン、グアムと激戦地を転々とする日本陸軍の真実の姿を、冷静沈着なる視点から描いた詳細なる従軍の記録。自軍の総攻撃を目前にして、兵士はなぜ、捕虜となる途を選んだのか。

第二次世界大戦中、著者は華中、満州、サイパンを転戦。グアム島攻防戦の最後の段階で投降、終戦までハワイの捕虜収容所で過ごす。

ハワイの収容所では新しい価値観と忘れがたい人物との出会いが待っていた。

「階級順に並んだ。上等兵、伍長、軍曹、少尉、中佐、大将、元帥。おっと、元帥はいねえか」

このセリフに一同おったまげた。

オーティス・ケーリさんとの出会いである。(本書412頁)

彼のもとで忘れかけていた勉学への意欲を取り戻す。

「ハワイ・タイムス」は四頁のうち半分が邦字、半分が英文だった。勉強のテキストにはもってこいである。日本文は首をかしげるような感じの文章だったが、この際それは問題ではなかった。一日分の新聞を三日も四日もかかって、和英対照して丹念に読んだ。すんだあともマットの下へしまっておいた。

(本書423頁)

 

戦後、著者はすぐに帰宅できたわけではない。「あとがき」に奥様が死んだと思われたご主人の手紙をケーリさんが届けてくれたことを回想している。

著者は戦争中のことを話さなかったらしい。ただ、よく会話していた奥様の弟さんは以下のように回想したそうだ。

「彼は戦後、人生観が変わってしまったんだよ。米軍に投降したところで彼の前半の人生が終わり、ハワイからまた新たな第二部の物語が始まったんだ」