Lawrence M. Judd and Hawaii: An Autobiography

By | 2017年8月8日
Lawrence M. Judd and Hawaii: An Autobiography ブックカバー Lawrence M. Judd and Hawaii: An Autobiography
Lawrence M. Judd, Hugh W. Lytle
Charles E.Tuttle Company
1971
296

最初にお断りしなければならないのは、浅海はこの元準州知事ローレンス・ジャッドに非常に悪いイメージを持っていたことである。なにしろタリア・マッシー事件において殺人という罪を犯した水兵、フォーテスキュー夫人ら10年の投獄という宣告を、知事事務所での一時間の滞在に短縮、解放してしまったのだから。この事件を知った当初は宣教師の末裔がハワイの政治経済を占有していた悪しき例と考えていた。

その後、彼のそのほかの文章や仕事、特にハンセン病患者施設の改善、社会復帰に果たしたこと等を知るようになり、180度、ジャッド元知事を見る眼が変わってしまった。最初が悪すぎたゆえに逆にブレ過ぎているかもしれないが。

アメリカ本土からの圧力に負け、フォーテスキュー夫人らの釈放をせざるをえなかった彼であるが、その後、ピンカートンに命じてこの事件を再調査させた功績は忘れてはならない。この調査報告があってこそ、例えばDavid E. Stannard著「Honor Killing: Race, Rape, and Clarence Darrow’s Spectacular Last Case」等で実際に起こったことであろうことを考察出来るのである。

また、スターリング提督と事件の扱い、ハワイの人々への信頼について激しく対立したことを忘れてはならない。

とはいえ、ジャッド準州知事の回想録に日系人との具体的なエピソードを期待すると裏切られる。日系人の名前や団体との交流があったはずだが具体的な記述が無いのである。前任のファーリントン準州知事の評伝では日系人問題の記述が目立つ(1)ので、余計、物足りない思いがする。

数少ない記述の中で外国語学校規制への言及があった。実の兄が規制法案に関わっているにも関わらず、この規制を評価しないような記述があるのが面白い(pp.127-128)。その他、スターリング提督との論争のなかで日系人への信頼が表明されている。スターリング提督が「アジアの国と戦争状態に陥ったとき、ハワイのアジア系住民を信頼できるか?」と問うた時、「住民は忠誠を尽くすだろう」と答えている。

もちろん当時は知る由もないが、この意見が正しかったことが後に証明された。1941年12月7日、日本軍による真珠湾攻撃によって。(p.172)

ジャッド知事はハワイにいる日系人と日本とを明確に分けて考えていた。そしてこの回想録でその根拠を特に期さなかったのはわざわざ記すまでもない当然のことと考えていたからかもしれない。

本書以外で、日系人との関わりを探していこう。直近で見つかったのは1930年のThe Japanese Students’ Association of Hawaii年報に記載された彼の挨拶である。

彼はここで「少年時代から日本人の人々と身近に接していた。私にとって彼らは順法意識の高い前向きな人々である。(後略)」というような内容を記している。

戦争直前の1938年から1941年3月まで300余回、各州を回って演説行脚を行っている(p.233)Bowman、Deute、Cummingsといった広告代理店の力も借りてタリア・マッシー事件等で傷ついたハワイのイメージ回復を図っている。いわば、アメリカ本土における非公式のハワイ・アンバサダーとして。

その当時のものと思われる資料が手元にある。タイトルは「Hawaii :PIVOT OF THE PACIFIC」。15ページの小冊子だ。

内容は政治経済の紹介が主であり、アジア系住民の多さについては紳士協定等により今後大きな移民の流入は無いという表現に留まっている。広告代理店から表現を抑えるよう提言があったのだろうか。

→「HAWAII:PIVOT OF THE PACIFIC

しかし、同じ時期のスターリング元提督の「CAN WE TRUST HAWAII?」という問いかけに対しては素早く激しく対応している。同じ「Liberty」誌9月2日号に「Yes, Admiral Stirling, Hawaii can be trusted.」という反論を掲載している。

左側がサミュエル・ワイルダー・キング、右側がジャッド前知事の回答。つたないが以下で翻訳を試みている。

→「Yes, Admiral Stirling, Hawaii can be trusted.

恐らく本書を手にする読者はタリア・マッシー事件についての記述目当てと思われる。ここではちょっと偏った読み方をしてしまった。

タリア・マッシー事件についてはまた別の機会、別の書でも触れていきたい。

また、ジャッド元知事のなしえた仕事、ハンセン病患者の方々への環境改善等も関連の各書で改めて述べさせて頂く。

(1)Thornton Sherburne Hardy,’Wallace Rider Farrington’,Honolulu Star-Bulletin,1935

11章の「The New Americans」では日系人問題にまるまる一章を割いているほか、外国語学校問題などへの言及が有る。