尊厳の芸術:強制収容所で紡がれた日本の心

By | 2017年4月28日
尊厳の芸術:強制収容所で紡がれた日本の心 ブックカバー 尊厳の芸術:強制収容所で紡がれた日本の心
デルフィン・ヒラスナ
NHK出版
2013/05/30
ペーパーバック 
134
国谷 裕子 (監訳)
キット・ヒンリックス
テリー・ヘファナン

スミソニアン・アメリカ美術館も絶賛、日本人の不屈の魂が込められた作品集

太平洋戦争開戦直後、米国では日系アメリカ人およそ12万人が14か所におよぶ強制収容所へ送られた。彼らは限られた材料と道具をもとに数々の美術工芸品や日用品を生み出した。これらの作品を収め、NHK『クローズアップ現代』『日曜美術館』でも紹介された写真集、待望の翻訳出版。

NHK出版 書籍紹介ページから

すべての始まりはスミソニアンを始めとしてアメリカ各地で評判を呼んだ収容所内での日系アメリカ人の手作りの作品の展示会だった。

NHKの「クローズアップ現代」で紹介された「Art of Gaman」の展示は日本においても大きな反響を呼んだ。のちに平成24年11月から東京をはじめとして各地に巡回展示も実現された。

丁寧に作成されたガイドブック、出展目録も用意されていたが、図録に類するものはこの原著である「The Art of Gaman: Arts and Crafts from the Japanese American Internment Camps 1942-1946The Art of Gaman: Arts and Crafts from the Japanese American Internment Camps 1942-1946」を入手するしかなかった。

したがって本書が刊行されたときは文字どおり欣喜雀躍した。もちろん、収録された作品と展示では若干の差異がある。例えば映画「ミリキタニの猫」で知られるジミー・ツトム・ミリキタニの「トゥールレイク収容所」は本書には収録されていない。

しかし、圧倒的なのは完成された絵画作品ではなく身の回りの道具であったり、小物、装飾品などの完成度の高さである。これが道具も材料も限られた収容所で作られたものなのかと息をのむ。

日本でいえば「民芸」になるのか、出品作品一覧をみても「作者不詳」となっているものが十数点もあるが(背景を知ってから見るためもあるが)作者の気持ちが伝わってくる気がする。

確かに「配所転々」「鐵柵生活」、当山哲夫さんの回顧録「波乱重重八十年の回顧」など、ハワイから収容所に送られた方々の書を読むと手仕事で多くの方が精神的に救われたことは知っていたが、実際に作品を目にすると・・。

ここまで打ち込めるものなのか、と。

今すぐに手に取れる書から引用すると大谷松治郎さんはこのように記している。

(サンタフェ収容所の生活を回顧して)

サンデーは、早朝からキリスト教連合礼拝に行った、午後は浄土宗回教徒のお説教を聞き、ひまがあれば図書館から日本書籍を拝借して、読書にふけった。あるときは手芸品、書画、書道などの展示会が催され、即売もされた。時々、掘り出し物もあった。娯楽としては、週二回、三回ベース・ボールの試合があり、月一回くらいは芝居も見られた。ハワイ・メンが主体となってインタニーズを慰め、無聊を慰めるために骨を折った。野球部や、園芸部などができてハワイの生活と何ら変わりなし、インタニー生活のよい思い出となった。

「わが人となりし足跡」1971,pp.85-86

(もちろん、良い思い出の回想なので上記のような記載になっているが、この収容所でイタリー戦前にいく次男を送り出しており、常にその無事を気にかけながらの生活である)

古生美男さんの著書「わが半世紀」では記録写真、書画作品が多く収められており、なかには抑留中のものも多く掲載されている。もちろん、それも興味深いが、収容所中の年賀状の見事なことに驚嘆。また、やはりサンタフェ収容所の演芸会の舞台写真がすごい。鎧や着物、小道具までよくまあ、ここまでそろえられたものと驚くばかり。

所内演芸部では物資調達に困難な中からも立派な衣装を作製し、娑婆でも見られない程の演芸を見せて我々抑留者を慰めて下さった。演芸部員の労に対して一同は常に感謝していたのである。

「わが半世紀」1962,p.187

その他、仏像などの美術品、扇、笛、金づちなど、この展覧会で紹介されたのと同等の作品を写真で見ることができる。著者自身、「紙屑や紙箱の表面をはぎ取って、自分の書いたものを表装して自らを慰め」(同,p164)ていた。

絵画のように完成されたものは描かれたものに当時の収容所などの背景が描かれているからまだ後世に伝えやすいが、生活道具など本書に収められた作品はその背景が伝わらないまま、散逸する可能性があった。特に一世の方々はあまり過去を語らない方々が多かったと思う。その中でこれらの作品を集め、展示に繋げられた著者、関係者の皆様に感謝したいと思う。

もう一つ、この展示が日本人の関心を集めたことにも留意したい。多くの日本人がこれらの展示に関心をしめしたのは、本書の帯などにあるとおり「日本人」の心を再確認するためだと思う。それがなにか、ということはここでは書けないが、これらの作品になにかしら込められたものであり、現代の日本にすむ人々が身近に存在を確認することが出来ないでいるものをここに見出したかったのだと考える。

それは残念ながら異文化のなかでの不幸な出来事や摩擦のなかでしか見いだせなかったものなのかもしれないし、身近にあっても(例えば外部の目から光を当てないと)見えないものかもしれない。

目次(かっこ内は浅海がまとめたもの)

はじめに(なぜ、これらの作品が隠されていたのか)

日系人収容所(収容所の経緯・概略、暮らし、作者と材料、芸術の成立)

作品

生活(解放後の権利回復、謝罪要求まで)

協力者、作品の一覧

「我慢の芸術」が与えてくれたもの (「クローズアップ現代」のキャスターでいらした国谷 裕子さんが、展示との出会い、番組紹介後の反響を振り返る)